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高松地方裁判所 昭和54年(わ)515号 判決

本籍

香川県丸亀市米屋町二〇番地

住居

香川県丸亀市松屋町三番地

無職

吉塚貞利

明治四一年一一月一日生

本籍

香川県丸亀市米屋町二〇番地

住居

香川県丸亀市松屋町三番地

会社員

吉塚禎三

昭和一〇年一月三日生

右の者らに対する所得税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官小浦英俊出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

被告人吉塚貞利を懲役一年六月及び罰金二三〇〇万円に、被告人吉塚禎三を懲役一年に処する。

但し、本裁判確定の日から右各被告人に対し、各三年間右当該懲役刑の執行をそれぞれ猶予する。

被告人吉塚貞利において右罰金を完納することができないときは、一日を金一〇万円に換算した期間被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は二分し、その一宛を右各被告人に負担させる。

理由

(罪となるべき事実)

被告人吉塚貞利は、香川県丸亀市松屋町三番地ほか二か所に事業所を設け「吉塚仏壇店」の名称で仏壇、仏具の販売業を営むもの、同吉塚禎三は、右貞利の二男で同人の右事業を補佐しているものであったが、被告人両名は共謀のうえ、右貞利の所得税を不正に免れようと企て、

第一  昭和五〇年分の被告人吉塚貞利の真実の所得金額は三六一一万一五一六円、これに対する所得税額は一四三三万八七〇〇円であるのにかかわらず、売上げの一部を除外するなどしたうえ、同五一年三月一三日、同市大手町三番地丸亀税務署において、同署長に対し、所得金額は八五九万五三九三円、これに対する所得税額は一〇六万三三〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって不正の行為により、その差額である一三二七万五四〇〇円の所得税を免れ

第二  同五一年分の同被告人の真実の所得金額は八三九二万六五一〇円、これに対する所得税額は四五四九万二七〇〇円であるのにかかわらず、前同様の不正手段を講じたうえ、同五二年三月一五日、前記丸亀税務署において、同署長に対し、所得金額は一一八〇万九三四六円、これに対する所得税額は、一九九万五三〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって不正の行為により、その差額である四三四九万七四〇〇円の所得税を免れ

第三  同五二年分の同被告人の真実の所得金額は八三五七万三八八五円、これに対する所得税額は四五六八万〇一〇〇円であるのにかかわらず、前同様の不正手段を講じたうえ、同五三年三月一五日、前記丸亀税務署において、同署長に対し、同被告人名義をもって、所得金額は一二五九万九二〇二円、これに対する所得税額は二四二万九〇〇〇円である旨の虚偽の確定申告を提出し、もって不正の行為によりその差額である四三二五万一一〇〇円の所得税を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一、被告人両名の当公判廷における各供述

一、被告人吉塚貞利の大蔵事務官(三通)に対する各質問てん末書及び検察官に対する供述調書

一、被告人吉塚禎三の大蔵事務官(一一通)に対する各質問てん末書及び検察官に対する各供述調書

一、被告人吉塚貞利外一名作成の上申書四通(請求番号一〇七乃至一一一)

一、被告人吉塚貞利外三名作成の上申書

一、被告人吉塚禎三作成の確認書六通

一、吉塚公子(五通)、吉塚政雄(三通)、吉塚泰三、吉塚アイ、吉塚敬子、吉塚教子、西田弘、富野清、佐野常夫(昭和五三年四月一九日付)、藤本久、藤本京子、松原英明、近藤秀亮及び原田実の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一、吉塚公子及び吉塚政雄の検察官に対する各供述調書

一、査察官石丸章司作成の査察官調書及び仕入単価推移表

一、査察官野間章男作成の査察官報告書

一、吉塚泰三外一名、吉塚淳外一名、有限会社佐野木工代表取締役佐野常夫及び株式会社徳仏代表取締役佐野常夫の作成に係る各上申書

一、丸亀市長作成の国民年金の照会に対する回答書

一、有限会社滝千代松商店代表取締役堀田清治及び株式会社関菊仏具店代表取締役関豊の作成に係る各取引内容照会に対する回答書

一、有限会社小浜木工所総務部長近久好秀及び株式会社西原仏閣堂代表取締役西原朝樹作成の各証明書

一、吉塚アイ作成の陳情書

一、大蔵事務官泰地重則(二通)、同徳永陽三(五通)、同田中広海、同三木茂義、同浜喜久夫、同佐藤重義、同河上忠明及び同三栖一朗(二通)の作成の各確認書

一、大蔵事務官三木茂義(二通)、同改田典祐及び同土居豊作成の各検査てん末書

一、四国銀行丸亀支店支店長山西喜平次作成の還付受領書

第一及び第二事実につき

一、大蔵事務官行廣昭始作成の調査事績報告書

一、桑原寛、西原朝樹及び竹田田次の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一、株式会社丸大代表取締役藤恒禎作成の証明書

第一事実につき

一、佐野常夫の大蔵事務官に対する同年六月三〇日付質問てん末書

第二及び第三事実につき

一、手塚吉蔵、辻初枝及び古川淑雄の大蔵事務官に対する各質問てん末書

第三事実につき

一、長尾マツエ、東原信夫、上杉サカヱ、大原利夫、多田孝男、花田優、小川恵弘及び尾高宏の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一、有限会社楠本木工所代表取締役楠本広行作成の上申書

一、有限会社桑原木工所代表取締役桑原正昭作成の証明書

(昭和五一年度及び同五二年度における雑所得を認めなかった理由)

被告人吉塚禎三(以下禎三と略称)の当公判廷における供述、同被告人の大蔵事務官に対する昭和五三年八月二五日付及び同年九月一日付各質問てん末書、同被告人作成の確認書(請求番号一〇〇)、及び証人村上剛の当判廷における供述によれば、被告人禎三は昭和五一年秋ごろ、株式会社日本債券信用銀行高松支店副支店長村上剛と、同被告人が同銀行に対し債券売買の斡旋をし、その報酬として同銀行から基本給月額二万円のほか斡旋額に応じ歩合給を受けるという嘱託契約を結び、同被告人は同銀行に対し、昭和五一年一月一日から同年一二月三一日までの間に八〇六四万円の、昭和五二年一月一日から同年一二月三一日までの間に七四五一万円の債券売買の斡旋をなし、同銀行からその報酬として前者の期間中に三五万二五六〇円、後者の期間中に五二万八〇四〇円の支給を受けたことが認められる。

右証拠のほか両被告人の検察官に対する各供述調書によれば、被告人禎三は捜査段階において右報酬は被告人吉塚貞利(以下貞利と略称)の所得であると自認しているうえ、被告人両名は共謀のうえ、被告人貞利の所得税を免れる等の目的もあって右債券を購入したものであること、右報酬は被告人貞利だけに債券購入の斡旋をした結果生じたものであることが認められ、これらの事実に照らすと、右報酬は被告人貞利の所得であるとの疑いが存することは否定できない。けれども、他方債券購入が被告人貞利の所得税を免れる等の手段としてなされたものであっても、被告人禎三と同銀行間に締結された嘱託契約はこれとは別に存することは可能であること、被告人禎三は債券購入斡旋の結果には至らなかったけれども、被告人貞利以外にも二、三人に債券購入の勧誘をしたことが存すること、被告人禎三は右報酬について源泉徴収による所得税の支払をしているうえ、これを自己のためすべて費消していることが認められる。

以上の事実を彼此総合すると、被告人禎三が昭和五一年度及び同五二年度中に株式会社日本債券信用銀行から受け取った報酬は被告人貞利の所得であるとの疑が存することは否定できないけれども、被告人貞利の所得であると認めるに十分な証拠があるとはいえない。

(法令の適用)

判示各所為(被告人両名に対し)

所得税法第二三八条第一、二項、刑法第六〇条(被告人吉塚貞利に併科刑を、被告人吉塚禎三に懲役刑を選択)

併合罪加重(右同)

刑法第四五条前段、第四七条本文、第一〇条(いずれも懲役刑については重い第二の罪の刑に加重)、第四八条第二項(被告人吉塚貞利に対してのみ)

執行猶予(被告人両名に対する懲役刑につき)

同法第二五条第一項

換刑処分(被告人吉塚貞利のみ)

同法第一八条

訴訟費用(被告人両名に対し)

刑事訴訟法第一八一条第一項本文

昭和五四年一一月二九日

(裁判官 大下倉保四朗)

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